実用的な文章の書き方を知りたいならこれ 野口悠紀雄『超文章法』【書評】

2022年4月25日

文学系ではなく、実用的な文章の書き方を教えてくれる良書はないものか?

僕がおすすめしたいのが野口悠紀雄の『超文章法』(中公新書)。

この人は一流エコノミストというだけでなく、『超整理法』や『超勉強法』といったベストセラーでも有名です。

『超文章法』は実務的な文章のための指南書です。

しかし意外と文学的な彩りもあって、読み物としておもしろい。そこかしこで著者の文学的な教養が披露されます。

野口悠紀雄といえばお堅い経済学者のイメージがあったので、高度な文学趣味を持ち合わせていたのは意外でしたね。

たとえば巻末のブックリストにもそれが現れています。必読本として挙げられるのはたったの2冊で、その片方がスティーブン・キングの『書くことについて』なのです。この選出はおもしろい。これはキングが小説を書く技術について語った本で、基本的には文学者志望の人に向けた本ですからね。

ちなみにもう一冊は木下是雄の『理科系の作文技術』。こっちはもろにイメージ通りですね。

本書のおおまかな構成は以下の通り。

・第1章…メッセージが重要。メッセージとは読者に伝えたい主張のこと。文章が成功するかどうかは8割方メッセージで決まる。よいメッセージは一言で簡潔に表現できる。メッセージを見つけるには考え抜くしかない。対話のなかで見つかることも多い。読者層を意識せよ。

・第2章~第3章…骨組みを作る。「一つは二つ」「二つは一つ」で構成(後述)。文章は1500字の短文と15000字の長文が基本。後はこれを組み合わせるだけ。

・第4章…比喩、具体例、引用の効果的な使い方。

・第5章~第6章…わかりにくい文章とは何か?どうやったら修正できるか?推敲について。削れるだけ削る。

・第7章…「始めればできる」。書き始めることが大事。書き始めてしまえばなんとかなる(後述)。

対立概念を駆使して文章を組み立てよ 一つは二つ、二つは一つ

個人的に本書でもっとも印象的だったのは文章の構成法に関するパート。対立概念をうまく用いて構成を考えろと著者は言っています。

そのさいに著者が使っているテンプレートが「一つは二つ、二つは一つ」というもの。これがかなり役に立つ。

「一つは二つ」というのは、一見すると一枚岩に見える現象が、実は二つの面を合わせ持っていることを指摘する方法。

たとえばケインズは、従来「資本家」と一括りにされてきたグループに実は二つの異なる層が含まれていることに気づき、それを「資産家」と「経営者」にわけて論述を展開します。まさに「一つは二つ」の具体例。

逆に「二つは一つ」というのは、一見するとまったく異なる事象が、実は同じ本質を共有していると指摘する方法です。

これもケインズの例ですが、彼は「経営者」と「労働者」に共通する要素を見出し、二つのグループを統一して「実業者」と呼びます。

ケインズは「一つは二つ」を使って資本家を資産家と経営者にわけ、また同時に「二つは一つ」を使って経営者と労働者を実業者に統合したのですね。こうしてマルクスの「資本家vs労働者」の対立概念は、ケインズにおいて「資産家vs実業者」へと変貌するわけです。

日本でこの技を駆使する人物といえば柄谷行人ですかね。なんにせよこの方法は参考になります。

 

書き始めてしまえばなんとかなる

もうひとつ印象的なのが最後の章。ここで著者は、はじめることの重要性を説いています。

はじめてしまえば、なんとかなる。作業に現役でいれば、脳がバックグラウンドで勝手に作業をしてくれるからです。たとえば普段ならスルーしていたような情報から、作業に関連する情報を脳が勝手に抜き出してきたりとか。

言い換えると、これは締め切り直前まで仕事をしないのは非効率だということを意味しますね。その場合、脳の自動処理による恩恵を受けられなくなるわけですから。

これは経験的にも納得できますね。最初の一歩さえ踏み出してしまえば、後は意外となんとかなったりする。まあ仕事にせよ勉強にせよ、その最初の一歩のハードルが怖ろしく高いのですが…

個人的におすすめの方法は箇条書きを駆使することですね。いきなりしっかりした文章を書こうとするとハードルが高すぎてしんどいので、まずは思いついているアイデアや構成だけを一気に箇条書きしていくのがおすすめです。後はそこに肉付けをしていく感じ。

 

なお文章術のおすすめ本については以下の記事も参考にしてみてください。