『米中もし戦わば』アメリカが中国に貿易戦争をしかける理由【書評】
ピーター・ナヴァロの『米中もし戦わば』(文春文庫)を読みました。
著者のピーター・ナヴァロはアメリカ大統領補佐官。トランプのブレーンとして、米中貿易戦争を主導している張本人です。
タイトルを見るとなんだが右寄りのキナ臭い本に思えるかもしれませんが、中身はまっとうです。知的な地政学の本。
ちなみに原題はCrouching Tiger。トラは中国のことで、そのトラがクラウチングのポーズつまり臨戦態勢に入っているぞという意味ですね。こっちのタイトルのほうがいい。
ナヴァロというとヤバい人というイメージがありましたが、この本を読んだらすごく知的で驚きましたよ。
タイトルに反して、いかにして米中の戦争を避けるかという話題が延々と続きます。
以下のようなポイントが論じられています。
・中国の「戦わずして勝つ」とはどのような戦略か
・中国の地下に展開しているミサイル施設はどのようなものか
・なぜヨーロッパは最新軍事技術を中国に売るのか
・なぜ台湾はアメリカと中国の両方にとって致命的に重要なのか
・インドと中国が水資源をめぐって戦争する可能性
・中国ロシア軍事同盟の可能性
・アメリカ軍がアジアから撤退してはならない理由
・中国が国力にしめる軍事力の割合を10%程度に設定する理由
米中貿易戦争の観点から興味深いのは、第42章「経済力による平和」です。ここを読むと、ナヴァロが中国に貿易戦争をしかける理由がわかります。
なぜアメリカは中国に貿易戦争をしかけるのか?その答えは、中国の軍事力発展を抑制するためです。
経済が発展することで、そこから得た富を軍事技術の進展に活かすことができる。ならば、経済の発展を止めれば軍事力を進化させる余裕もなくなるはずだ。
このような、聞かされてみればわりと単純なロジックで動いているようです。
しかしこうしたロジックが背後にあることを考えると、貿易戦争はちょっとやそっとの妥協では終わらないことがわかりますね。
また法人税減税に関するコメントもあります。法人税が高すぎるせいでアメリカ企業は海外に移転し(それだけが理由だとは思えませんが)、中国への富の集中に寄与してしまっている、と。
トランプは大胆な減税を打ち出しましたが、あれも軍事的な背景のもとで行われているわけですね。
アメリカの動きの背後にどのようなロジックが潜んでいるのか。それが垣間見える良書でした。