ネコとイヌを哲学してみた『猫たち』『犬たち』【書評】
フロランス・ビュルガの『猫たち』(法政大学出版局)を読みました。
この本、まずカバーのデザインが素敵。法政大学出版局からこんなカバーの本が出るのかという感じ。
著者はフランスの女流哲学者です。フランスにおける動物哲学の第一人者。ちなみにベジタリアン。
哲学といってもネコを主題にしたエッセイで、数々の哲学者や文学者がネコについてなした発言を引用しながら、話が進んでいきます。
参照される哲学者・文学者はリルケ、アラン、ボードレール、フロイト、ハイデガー、メルロ・ポンティ、アガンベン、ヘーゲル、フッサール、ラカン、マラルメ、などなど。
人間とネコの共同生活が始まったのは古代エジプトの時代でした。
闇夜でも目が見えるネコは、太陽の化身と考えられていたらしい。地平線の向こうに没した太陽が、ネコの目を通して夜の世界を監視していると考えたのですね。
ところがキリスト教の時代になるとネコには受難の時がおとずれます。魔性の獣とみなされ、人間たちから迫害されるのです。
しかし大航海時代になると人間との絆が復活。ネコたちは船乗りに重宝され、船に乗ってアジアやアメリカにも移住します。
そして現在の大繁栄時代に至るというわけです。
エッセイにしては翻訳が堅いのが難点ですが、ネコが好きなら楽しく読める内容です。
犬を論じた本はこっち
ネコの哲学があるんだからイヌの哲学があってもいいんじゃないかという感じですが、実はあります。
それがマルク・アリザールの『犬たち』(法政大学出版局)です。
こちらもカバーデザインが秀逸。
著者はやはりフランスの哲学者で、大の愛犬家です。飼い犬が亡くなったことでショックを受け、追悼のために書かれたのが本書でした。
フランスでは1万部を超えるベストセラーになったそう。
叙述スタイルは『猫たち』と同じで、数々の哲学者や文学者のことばを引用しつつ進められる、哲学エッセイです。
引用される哲学者・文学者はドゥルーズ、フロイト、バタイユ、レヴィナス、カフカ、シマック、などなど。
アリザールは現代社会に流布している「人間に服従する単純な動物」というイヌのイメージに批判の矢を向けます。
アリザールによると、このようなイメージはキリスト教社会における神と人間の関係が、人間とイヌの関係に投影されて出来上がったものにすぎません。
古代においては、イヌはもっと複雑で奥行きのある動物として理解されていました。人間の友であるだけでなく、荒ぶる自然の力を体現する存在として畏怖されていたのがイヌたちだったのです。
アリザールは、イヌのもつそのような二重性を現代に蘇らせようとしているといってもいいでしょう。
これもイヌが好きなら楽しめる内容です。もう少し柔らかい文体で訳してほしかったという気持ちはありますね。