中国がビッグブラザーを超える日 野口悠紀雄『AI入門講座』【書評】

2020年11月6日中国, 野口悠紀雄

経済学者の野口悠紀雄が書いたAI入門書です。

技術系の本とは異なり、AIが社会に対してもたらすインパクトを扱う点が特徴。

類書にない本書ならではの特徴は、第8章の「深刻な中国問題」ですね。中国におけるAI技術の進展、そしてその問題点が解説されています。

 

中国はAI社会との相性が抜群

中国ほどAIとの相性がいい国はありません。なぜか?ビッグデータの収集と活用がかんたんにできるからです。

中国は人口が多くただでさえ情報の量が多い上、国民に個人主義的な傾向が薄いためデータの収集と活用を行いやすいのです。実際、多くの中国人はAIによる監視社会化について「国から守られているようで安心する」と考えているらしい。

アメリカではこうはいかないでしょう。アメリカ人は個人主義的な傾向が強く、政府や企業によるデータ活用をかんたんには許しません。政府を信用しないという点では、アメリカに匹敵する社会は存在しないでしょう。

AI技術の発展には、ビッグデータの収集と活用が欠かせません。ディープラーニングは一見どうでもよさげな情報を大量に食べることで発動するものですから。情報が多ければ多いほどAIは進化していく。

この点で中国はアメリカよりも有利な立場にあるといえるのです。

 

中国がビッグブラザーを超える日

ジョージ・オーウェルの『1984』に描かれたような完全監視社会(ビッグブラザー)は、現実的には不可能とされてきました。

なぜかというと、監視のための人員に社会のリソースが奪われてしまうからです。完全な監視社会を実現するためには、全人口の約1割もの人員が必要とされます。これでは他の産業が機能不全に陥り、社会システムが回りません。

しかしAIを駆使すればそれが実現可能となります。監視のために、そこまでの人員が必要ないからですね。

中国ではすでにSFのようなシステムが実現しています。たとえば深センでは、最先端の顔認証技術を用いて監視カメラで個人を特定できるレベルに達している。

 

そして中国のコンピュータサイエンスの基礎研究は今や世界一です。清華大学のコンピュータサイエンス部門にはマサチューセッツ工科大学でさえ敵いません。

また全米科学財団の発表によると、中国は科学技術の論文数でもアメリカを抜いて世界一の座につきました。

こうした事実を考えると、これからも中国の科学技術が伸びることはほぼ確実なわけです。

独裁的な政府と、非個人主義的な国民と、世界一のテクノロジーが結びつく。近い将来には、想像を絶する世界がまっているかもしれません。