文豪による文章指南 三島由紀夫『文章読本』
上手な文章は書かなくてもいい。だれにでも理解できるわかりやすい文章を書こう。
これが現代にはびこる文章術ですが、こうした潮流に真っ向から歯向かうのが三島由紀夫の『文章読本』です。
プロによるプロ志望のための書といった趣。一流の書き手になることを課しています。
一流の書き手は一流の読み手
三島に言わせると、一流の書き手であるためには一流の読み手でなくてはならない。
そこで本書のメインは一流の文章の玩味ということになります。
様々な分野から三島が文章を引用してきて、読者はそれを読んでいくという構成。
したがって本書には文学講義のような面もあり、個人的にはここがいちばん魅力的に感じました。
たとえば文体には長編向きの文体と短編向きの文体があるといい、前者の代表としてバルザック、ゲーテ、ドストエフスキーを、後者の代表として森鴎外、志賀直哉、ヴァレリーを挙げる場面。
こういう小ネタの炸裂がおもしろいです。
また谷崎潤一郎の『細雪』がアメリカで会話小説と呼ばれたという指摘も印象的。要するに、劇に近い面があるということですね。
またドストエフスキー作品が会話に重点を置いた劇的構造をもつことも指摘されており、非常に興味深い。
そこで気づいたのですが、僕は劇が好きなのかもしれないですね。
いちばん好きな作家はドストエフスキーですし、日本の長編でもっともお気に入りの作品は谷崎の『細雪』です。
もちろんシェイクスピアやチェーホフの劇作も大好きです。自分の好みが明らかになったような気がします。
文章読本シリーズならこれがおすすめ
中公文庫の文章読本には他にも谷崎潤一郎や、川端康成、丸谷才一の書いたものがあります。
いちばん有名なのは谷崎の文章読本ですね。
三島由紀夫の文章読本は、谷崎や丸谷に比べるとより文学趣味に寄っている感じ。言い換えれば谷崎や丸谷のほうが実践向きといえます。
僕は川端以外のものは読んでいますが(川端のは代作と言われており読む気になれない)、谷崎の文章読本がいちばん好きです。
三島由紀夫の文章読本を読んだのは、野口悠紀雄が『超文章法』(中公新書)のなかで絶賛していたから。しかしやはり谷崎には及ばない印象でした。
文章読本シリーズからどれか一冊ということなら、まずは谷崎潤一郎の本を読むことをおすすめします。
文章術のおすすめ本はこちらも参考にしてみてください。