リープフロッグ現象とは何か【中国のIT産業が日本を超えた理由】

2021年1月29日

中国のIT産業は今や世界トップクラスです。数年後にはアメリカを超えると言われており、一部の分野ではすでに超えています。

中国国内には中国版GAFAともいえるBATが君臨し、市場を牛耳っています。BはバイドゥのBで、中国版グーグル。AはアリババのAで中国版アマゾン。TはテンセントのTで中国版フェイスブック(日本ではゲーム事業のほうが有名)です。

5Gやドローン、自動運転、キャッシュレス化、ブロックチェーンでも躍進しており、深センのような都市は日本人から見るとほぼSF世界です。

教育の質も異様に高く、清華大学はコンピュータサイエンスで世界一。トップ10には中国の大学が3つランクインし、トップ100で見ると香港などを含めた中華系が4分の1を占めます。

この異常な躍進はなんなのでしょうか?

リープフロッグ現象が起きた

中国がこれほどの躍進を遂げた理由は色々と考えられますが、もっとも核心的なのは野口悠紀雄の指摘するリープフロッグと呼ばれる現象でしょう。

リープフロッグとは何か?遅れた段階にあった国が、最新の技術をいち早く取り入れることで、誰よりも先に技術の最先端にワープしてしまう現象のことをいいます。

遅れているからこそ最先端のテクノロジーを吸収できるわけですね。逆に旧世代の技術が進んでいた場合、それらに携わる人々が抵抗勢力と化し、進化を阻害してしまうのです。

もはや言うまでもないと思いますが、後者の代表例は日本です。

 

中国のリープフロッグ現象は電子マネーの分野をみるとわかりやすいです。日本人から見ると、なんであそこまでキャッシュレス化が進んでいるのかとびっくりしますよね。

中国のキャッシュレス化進展の要因の一つが、クレジットカードの制度が確立していなかったことです。未発達な経済システムゆえ信用の保証が難しく、クレカがうまく機能しない。それを補うように電子マネーが登場し、企業や消費者のニーズを一気に満たしたというわけです。

これは明らかにリープフロッグ現象ですね。クレジットカードが普及している社会では、ここまで大胆なキャッシュレス化はなかなか起きづらいですから。

 

大学教育もリープフロッグ?

これも野口悠紀雄が述べていることですが、中国における大学の躍進もリープフロッグの一つである可能性があります。

20世紀の中国は毛沢東が暴れまわることで、過去の遺産が根絶やしにされました。大学教育もそのなかに含まれます。

そしてがら空きになった知的空間に、最先端のコンピュータサイエンスがスッと入ってきたのではないかということです。

これは日本とは対照的ですね。日本の大学はコンピュータサイエンスで遅れています。その理由の一つが、伝統的な工学(ハード系)が強すぎることです。彼らが抵抗勢力と化し、ソフトウェア系工学の進展を阻害するのですね。

 

日本の政治家だったら…?

中国のIT産業が異様な発展をしていることに関しては、他にも色々な要因がありますね。

たとえば中国政府が先進的だという点は否定できないでしょう。中国共産党はトップを含め、党員の多くが理数系です。彼らが時代の流れを読み、適切な分野にリソースを集中させたことは大きいでしょう。

仮に日本の政治家たちが中国のトップに座っていたとしましょう。その場合、コンピュータサイエンスにおける躍進は可能だったでしょうか?たぶん無理ですよね。

またシリコンバレーからの中国人還流も見逃せません。『テクノロジーの地政学』に書いてあったことですが、シリコンバレーから中国人を帰還させ、彼ら彼女らに自国のIT産業を担わせた面があります。

アメリカのシリコンバレーではインド人と中国人が主戦力になっていますが、その力を一部本国に還流させたのですね。

 

世界史的な事件

遅れていた者がその立場を逆手に取って一気に先頭に立つリープフロッグ現象。かつては中国がこの現象にやられた側でした。世界史上最大のリープフロッグは近代西洋世界のそれでしょうから。

ユーラシア大陸の辺境にすぎなかったヨーロッパはアメリカをはじめとする世界各地を植民地に組み込み生産力を増大、やがて覇権国の中国を追い抜いたのでした。これを歴史学では、大分岐といいます。

1775年の時点では、中国とインドだけで世界GDPの3分の2を占めていました。しかし1840年のアヘン戦争でイギリスに敗れ情勢は一変。国内の既得権層が内輪もめしている間に隣の日本にまで追い抜かれ、中国は最貧国の一つにまで落ちこみます。

今の中国はいわばリープフロッグ返しをしていると言えますね。一度大きく分岐しかけた歴史を軌道修正し、大収斂に向かわせている。

僕たちは世界史レベルの大事件を目撃しているといっても過言ではないでしょう。