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キリスト教とアリストテレス哲学の融合『トマス・アクィナス理性と神秘』【書評】

2023年11月16日

山本芳久の『トマス・アクィナス 理性と神秘』(岩波新書)を読みました。

非常に高い評価を得ている本で、新書という形態ながら2018年のサントリー学芸賞を受賞しています。

トマス・アクィナスといえばヨーロッパ中世のスコラ哲学、その代表作は『神学大全』

ここまではほとんどの人が知っていますよね(ちなみに本書によると、神学大全は入門書として書かれたそうです)。

しかし彼が実際に何をやったのか説明できる人はほとんどいないでしょうし、その著作を読んだことがある人となるとさらにレアでしょう(僕は読んだことありません)。

いったいトマスは何をしたのか?

一言でいうと、キリスト教とアリストテレスの結合です。本書のサブタイトルにもそれが現れていますね。「理性と神秘」。理性はアリストテレスを、神秘はキリスト教を表しています。

 

アリストテレスという「現代思想」

中世ヨーロッパの知的社会には、革命といっていいレベルの大事件が起こります。当時覇権を握っていたイスラム社会から、アリストテレスの文章が流入してきたのです。

これは日本で例えると仏教伝来や黒船来航に匹敵するような出来事です。それまでの常識が揺り動かされ、見たこともないような地平が開かれる。

アリストテレスはイエス・キリストが生まれる500年も前にギリシアで活躍した哲学者ですが、中世ヨーロッパの人間からしてみれば、その哲学はまさにとてつもない威力を秘めた「現代思想」だったのです。

 

キリスト教世界はアリストテレスにどう反応したか

イスラム世界からやってきた高度なアリストテレス哲学。キリスト教界はそれにどう対応したのでしょうか?

大まかに分けると、以下の3つのパターンに別れます。

 

1 アリストテレスを無視して旧来の神学に閉じこもる

2 アリストテレスを輸入するが、神学とは無関係のものとして併存させる

3 従来の神学をアリストテレスと対決させ、さらに高いレベルの神学を打ち立てる

 

トマス・アクィナスの立場は3番目です。

キリスト教界がアリストテレスの威力に震えるなか、積極的にそれとの対話をこころみ、新しい神学を打ち立てんとする。それがトマスの特徴でした。

アリストテレスを無視するのではなく、従来の神学と無関係なまま併存させるのでもない。

むしろ両者の弁証法的な対話から、さらにレベルの高い神学を生み出そうとする。この態度はきわめて哲学者的だといえるでしょう。

既存のゲーム盤を前提として考えるのではなく、そのゲーム盤そのものを見直す。こういう行き方は哲学者固有のものだからです。

神学者というと与えられたゲーム盤の上でちまちまやってるだけという印象を持ちがちですが、トマスはスケールが違うようです。

 

ではトマス思想の具体的内容はいかなるものなのか?

本書ではトマスの徳論に焦点を当てることで、それを解きほぐしていきます。その詳細な道行きもここで解説したいところですが、残念ながら紙幅がそれを許してくれそうにありません。

 

ちなみに著者の山本芳久氏は、ツイッターのアカウントを持っています。非常に含蓄のあるツイートをしておられるので、フォローすることをおすすめしておきます。

そういえば山本氏は以前ツイッターで、トマス入門書として清水書院の『トマス・アクィナス』を推奨していました。

この「人と思想」シリーズは新書サイズで読みやすく、伝記と思想解説のバランスが絶妙。隠れた良書が何気にたくさんあるシリーズです。

また中世哲学史に興味があるならルーベンスタインの『中世の覚醒』がイチオシです。中世哲学の本にしては滅多にないほどキャッチーで、読みやすい解説書になっています。

哲学の本

Posted by chaco