【洋書】『サピエンス全史』歴史を勉強する意味とは何か【解説】

2020年12月2日ヘーゲル

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが放った世界的ベストセラーA Brief History of Humankind(サピエンス全史)。

以前から気になっていたこの本、英語の勉強もかねて英語バージョンで読んでみました。

英語はものすごく読みやすいです。

構文的には高校3年生でもふつうに読めるんじゃないかと。単語がネックになる可能性はありますけどね。

英語圏の読み物は小説よりも本書のようなノンフィクションが読みやすいのが通例。

ハラリの本はそのなかでもかなり読みやすい部類ですね。

多読をしている英語学習者や大学生にもおすすめの一冊といえるでしょう。

ちなみに1ページ目の文章が内容、構成ともにすばらしいので、音読して暗唱することを推奨します。

なぜこの本が売れるのか?

おそらく、独特の文体と、歴史に対する冷めた見方の2点が大きいと思います。

文章がウィットに富んでいて、個性的なんですよね。ところどころで皮肉が効いて、ややブラック寄りのユーモアが炸裂する感じです。

これが読み物としての面白さをもたらしていると思います。似たような内容の本はほかにもあるけれど、本書はかなり個性的です。

またハラリは人類の将来に関してかなり悲観的です。ここにも人気の秘訣がある気がします。

今の時代は明るさや健康がもてはやされる一方で、日本やアメリカをはじめとした各国で民衆は大きな鬱屈を抱えていますよね。将来の進歩とか豊かさを信じている人は、ほとんどいないのが実情だと思います。

そこに著者のペシミステックな観点が登場した。これが民衆のムードと合致したのでしょう。

サピエンス全史、どんな本なのか?

ではこの『サピエンス全史』、どんな内容の本なのでしょうか?

一言でいえば、人類7万年の歴史を振り返る本です。

そして歴史の方向を決めた3つの事件が大々的に取り上げられる。7万年前の認知革命、1万2千年前の農業革命、そして500年前に始まり現在も進行中の科学革命の3つです。

 

認知革命の章では、人が言語によるシンボル操作を獲得したことで、他の人類種(人類はホモサピエンス以外にも存在しました)や動物たちから抜きん出たプロセスが説明されます。

農業革命の章では、農業が史上最大の詐欺であったことが説明されます。農業革命の結果、人類は全体としては豊かになりましたが、一人ひとりの生活は辛く厳しいものになりました。ここを読むと、農業に対するイメージが一変します。

科学革命の章では、科学がいかに発展してきたか、そして最新テクノロジーが僕たちをどこへ連れて行くのかが語られます。科学・国家・資本主義の結びつきに多くのページが割かれます。

 

歴史を学ぶ意味とは何か?

本書の著者ハラリは、歴史について独特の見方をもっています。彼によると、歴史を学ぶ意義とは、歴史の偶然性を知ることにあるというのです。

どういうことでしょうか?

一神教(キリスト教やイスラム教)が世界中に広まり、西洋人が制度を作り、資本主義と民主主義がベースになっている。

僕たちの生きる世界はだいたいこんな感じですよね。そして現在だけを見ていると、それがあたかも当然であるかのように感じます。

他の可能性があったとは感じられないし、未来が他のルートに逸れていくこともイメージできない。

 

しかし歴史を学ぶことでこれが変わります。

一神教が広がったことも、西洋が覇権を握ったことも、資本主義や民主主義が誕生したことも、決して当たり前ではなかったとわかるのです。

現在の世界は必然的なものではなく、偶然の産物であること。そして将来は不確かな偶然性に支配されていること。歴史を学ぶことでそれに気づける。

これがハラリの主張です。

 

ハラリとは真逆の歴史観をもつ人

ハラリと真逆の歴史観を取る人もいます。その代表者は19世紀ドイツの哲学者ヘーゲルでしょう。

ヘーゲルは歴史を、人類の自由というゴールに向かって突き進む必然のプロセスと捉えます。そして彼のなかでは、フランス革命によってこのプロセスは達成されました。

未来の偶然性どころか、歴史はもう終わってしまっているというのです。後は小さな事件が起こったりそれが鎮圧されたりを繰り返すだけ。これがヘーゲルの歴史観です。

 

このヘーゲルの思想を引き継ぎ、現代という状況のなかで思考のアップデートを重ねているのがフランシス・フクヤマです。

1990年代初期に発売された『歴史の終わり』は世界中でベストセラーになりました。

ヘーゲルとは違って、『歴史の終わり』は誰にでも読める易しい文章で書かれています。

ハラリと読み比べてみるとおもしろいかもしれません。