『生命と現実 木村敏との対話』【書評】

2020年10月24日ハイデガー

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哲学者の檜垣立哉による、精神医学者の木村敏へのインタビュー。

木村の自伝的作品として読むこともできるため、彼の人生や思考の変遷を知りたい人にはマストな本だといえます。

木村敏とは何者か

木村敏は日本を代表する精神医学者。精神病理学と現象学を融合させた独自の理論で知られ、その業績は海外でも有名です。

木村がよくテーマにするのが統合失調症(精神分裂病)。この病気をハイデガーや西田幾多郎の哲学を援用しながら、現象学的に描き出します。

現象学的にというのは、外側ではなく内側から描くということ。患者の体験や意味解釈を重視するのです。

ハイデガーと木村敏

この『生命と現実』でもっとも興味深かったのが、木村がハイデガーを読むようになったきっかけを語る部分。

最初はビンスヴァンガーを理解するためにハイデガーを読み始めたらしい。ビンスヴァンガーはドイツの精神医学者で、ハイデガーの理論を応用した研究を打ち出していました。こりゃハイデガーを知らなきゃ読めんということで、辻村公一に頼んで勉強会を開いたということです。

これを読んで思ったのですが、ミシェル・フーコーもビンスヴァンガーからハイデガーに入ったのかもしれませんね。

フーコーがハイデガーから多大な影響を受けたことを明かしたのは晩年のインタビューでしたが、かなり唐突な印象があったと思います。どうしてハイデガーなのかと。

しかし考えてみれば、フーコーも元々は精神医学出身の人なんですよね。ビンスヴァンガーにも言及している。ということは、そこでハイデガーを知ったと考えるのは自然だと思います。

ただ、フーコーが影響を受けたとされるのが後期ハイデガーである点はひっかかりますが…。ビンスヴァンガーは初期ハイデガーを援用しますから、そこが繋がるのかどうか微妙ではあります。

木村敏ならこれを読め

木村敏にはいくつも名著がありますが、僕がいちばん好きなのは『分裂病と他者』(ちくま学芸文庫)です。

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論文集ですが、おもしろさ、わかりやすさ、内容の高度さをあわせ持つ名作。哲学的に読んでも、精神医学的に読んでも、得るものは多いです。

もっと簡単な入門書を読みたいのなら、中公新書の『時間と自己』がおすすめです。木村理論のエッセンスがコンパクトにまとまっています。

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うつ病、てんかん、統合失調症を取り上げ、それぞれの病態を時間と結びつけて解明します。うつ病は過去、てんかんは現在、統合失調症は未来というように。非常にスリリングかつ啓発的な論考ですよ。