国語がいちばん大事『AI vs 教科書が読めない子どもたち』【書評】

2020年7月16日

新井紀子の『AI vs 教科書が読めない子どもたち』を読みました。以前からベストセラーになっている本ですね。

数学や科学の啓蒙書でもあり、哲学書でもあり、教育や仕事の問題を提起する社会派の本でもある。そのすべてで発見があります。稀に見るレベルの良書

もっと早く読んでおけばよかったと思いましたよ。

ホワイトカラーの仕事が半分なくなる

近年のAIは発達が目覚ましく、今後10~20年でホワイトカラーの仕事のうち半分がなくなると予測されています。

僕たちはいったいどうやって対策すればよいのでしょうか?

「AIには不可能なクリエイティブな仕事に移ればいいだけだ」と、あたかもなんてことないかのように語る人も少なくありません。

ではその「AIに不可能なこと」とは具体的に何を意味しているのでしょうか?

新井紀子によると、それは意味を理解することです。読解力こそが人間の武器になります。

 

AIは意味を理解できない

AIは数理モデルの上で作動します。数学の言葉は論理・確率・統計の3つだけ。この3つで処理できない知的活動はうまくこなせません。

かつて論理だけで構成されていたAIとはことなり、現在のAIは統計の発想で組み立てられています。ディープラーニングというやつですね。それが驚くべき成果を上げました。

しかしそれはあくまでも数理モデルの実践。AIに複雑な意味を読みとる仕事ができるようになる可能性は、現在のテクノロジーの延長線上にはありません。

論理、確率、統計のことばしか使えないうちは、人間の意味活動をそっくりそのまま真似することはできないのです。

 

中高生の大半は教科書をまともに読めない

読解力をつければいいと言われて、安心しましたか?たしかに読解力ならなんとでもなりそうな気はします。

しかし事態はそれほど甘くないのです。

新井紀子は基礎的読解力を調査するためのテスト(RST)を全国2万5千人を対象に実施しました。

このRSTは6つの分野から構成され、AIでも正答率が80%を超える「係り受け」「照応」問題と、AIには難しい「同義文判定」問題、さらにAIには不可能な「推論」「イメージ同定」「具体例同定」問題があります。

肝心なのはAIにできない「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」をどれだけ正解できるかですよね。これによってAIに代替されない人材になれるかどうかが決まるからです。

 

しかしテスト結果によると、多くの生徒がAIにも負けるという状況が明らかになりました。

表層的な読解に問題を抱えている生徒は中学卒業時点で3割。さらに内容理解を要する文章になると、学力が中ぐらいの高校でも半数以上の生徒がまともな読解ができない状態だといいます。

 

日本の学校が生み出す人材は劣化版AI

いわば劣化版AIのような人材が、現在の日本では多数派なのです。

AIによる産業転換が起こった時、このような人たちは新たな仕事に就くことができません。AIにできないこと(意味の理解)を苦手としているからです。

かつて数学者の藤原正彦は、学校教育に必要なものを聞かれて「一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数」と答えました。

新井紀子はそれを応用して、「一に読解、二に読解、三、四が遊びで五が算数」と言っています。

これからのAI時代には、読解力を育てるための国語教育がなによりも重要になるというわけです。

 

読解力はどうすれば伸びるのか?

では読解力はどうしたら伸びるのでしょうか?残念ながら、現在では科学的な方法は確立されていないそうです。

しかし経験的な事実から、いくつになっても読解力は成長すると新井紀子は確信しているようです。

そのカギは多読よりも精読にあるかもしれない、とも述べています。

その方向での最良のテキストは、おそらく出口汪の受験参考書シリーズでしょうね。

興味深いことに、読書の習慣はこの基礎的読解力と相関がないそうです。本をまったく読まなくても、できる子はできる。

ちなみに新井紀子も読書が苦手とのこと。読むのが遅く、年に5冊程度(少なすぎでは…?)しか消化できないそうです。

 

そういえば僕も子どもの頃はまったく本を読みませんでしたね。漫画やゲームの攻略本はよく読みましたが。

小説以外の本を初めてまともに読んだのも、大学生になってからです。

それが今では年に250冊くらい本を読み、しかも哲学書を読むことを趣味にしているのですから、わからないものです。

 

続編も発売されています

なお本書の続編も発売された模様。タイトルは『AIに負けない子どもを育てる』。

本書の実践編とでもいうべき内容で、いかにして読解力をアップさせるかが語られているようです。

こっちもそのうち読んでみる予定です。