国語がいちばん重要な理由『AI vs 教科書が読めない子どもたち』【書評】

2021年7月14日

新井紀子の『AI vs 教科書が読めない子どもたち』を読みました。以前から長らくベストセラーになっている本です。

数学や科学の啓蒙書でもあり、哲学書でもあり、教育や仕事の問題を提起する社会派の本でもある。そのすべてで発見があります。稀に見るレベルの良書。

非常におすすめ。もっと早く読んでおけばよかったと思いましたよ。

ホワイトカラーの仕事が半分なくなる

近年のAIは発達が目覚ましく、今後10~20年でホワイトカラーの仕事のうち半分がなくなると予測されています。

僕たちはいったいどうやって対策すればよいのでしょうか?

「AIには不可能なクリエイティブな仕事に移ればいいだけだ」と、あたかもなんてことないかのように語る人も少なくありません。

ではその「AIに不可能なこと」とは具体的に何を意味しているのでしょうか?

新井紀子によると、それは意味を理解することです。読解力こそが人間の武器になります。

 

シンギュラリティは起こらない―AIに国語ができない理由

シンギュラリティという言葉をご存じでしょうか?

巷では人間の知性をAIが超える瞬間のような意味で使われていますが、厳密にいえば、AIが自分を超える能力のAIを作り出せるようになる時点のことをシンギュラリティといいます。

しかし新井紀子によると、AIが人間の知性を上回ることはありません。なぜならAIは数理モデルを前提に作動するシステムであり、人間の知性をすべて数理モデル化することはできないからです。

 

AIは数理モデルの上で作動します。数学の言葉は論理・確率・統計の3つだけ。この3つで処理できない知的活動はうまくこなせません。

かつて論理だけで構成されていたAIとはことなり、現在のAIは統計の発想で組み立てられています。ディープラーニングというやつですね。それが驚くべき成果を上げました。

しかしそれはあくまでも数理モデルの実践にすぎないのです。人間と同じように思考できているわけではありません。そしてこれが、人工知能が読解を苦手としている理由です。

 

AIが人間並みの知性を再現するとしたら、論理的には2つの道が考えられます。

①数学に革命が起きて自然言語を数理モデル化できるようになる
②AI技術に革命が起きて数理モデル以外の方法で人工知能が動くようになる

このどちらかしかないと思います。いずれにせよ、それは現在のテクノロジーの延長線上にはありません。今のままでは、AIに人間の知的活動を再現することは不可能でしょう。

 

中高生の大半は教科書をまともに読めない

人工知能は国語ができない。だから読解力をつければ人工知能にが負けない。こう言われると、なんとかなりそうな気はします。

しかし事態はそれほど甘くないのです。

新井紀子は基礎的読解力を調査するためのテスト(RST)を全国2万5千人を対象に実施しました。

このRSTは6つの分野から構成され、AIでも正答率が80%を超える「係り受け」「照応」問題と、AIには難しい「同義文判定」問題、さらにAIには不可能な「推論」「イメージ同定」「具体例同定」問題があります。

肝心なのはAIにできない「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」をどれだけ正解できるかですよね。これによってAIに代替されない人材になれるかどうかが決まるからです。

 

しかしテスト結果によると、多くの生徒がAIにも負けるという状況が明らかになりました。

表層的な読解に問題を抱えている生徒は中学卒業時点で3割。さらに内容理解を要する文章になると、学力が中ぐらいの高校でも半数以上の生徒がまともな読解ができない状態だといいます。

いわば劣化版AIのような人材が、現在の日本では多数派なのです。

AIによる産業転換が起こった時、このような人たちは新たな仕事に就くことができません。AIにできないこと(意味の理解)を苦手としているからです。

 

かつて数学者の藤原正彦は、学校教育に必要なものを聞かれて「一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数」と答えました。

新井紀子はそれを応用して、「一に読解、二に読解、三、四が遊びで五が算数」と言っています。

これからのAI時代には、読解力を育てるための国語教育がなによりも重要になるというわけです。

 

読解力はどうすれば伸びるのか?

では読解力はどうしたら伸びるのでしょうか?残念ながら、現在では科学的な方法は確立されていないそうです。

しかし経験的な事実から、いくつになっても読解力は成長すると新井紀子は確信しているようです。そのカギは多読よりも精読にあるかもしれない、とも述べています。

その方向での最良のテキストは、おそらく出口汪の受験参考書シリーズあたりでしょうね。

興味深いことに、読書の習慣はこの基礎的読解力と相関がないそうです。本をまったく読まなくても、できる子はできる。

ちなみに新井紀子も読書が苦手とのこと。読むのが遅く、年に5冊程度(少なすぎでは…?)しか消化できないそうです。

 

続編も発売されています

なお本書の続編も発売された模様。タイトルは『AIに負けない子どもを育てる』。

本書の実践編とでもいうべき内容で、いかにして読解力をアップさせるかが語られているようです。

こっちもそのうち読んでみる予定です。