AI(人工知能)が人間を超えることができない決定的な理由

2020年7月16日

『AI vs 教科書が読めない子どもたち』の著者として有名な数学者・新井紀子によると、AIが人間の知性を上回ることはあり得ないといいます。

なぜか?

AIが数理モデルを前提として作動するシステムだからです。

シンギュラリティは起こらない

シンギュラリティという言葉をご存じでしょうか?

巷では人間の知性をAIが超える瞬間のような意味で使われていますが、厳密にいえば、AIが自分を超える能力のAIを作り出せるようになる時点のことをシンギュラリティといいます。

しかし新井紀子によると、AIが人間の知性を上回ることはありません。なぜならAIは数理モデルを前提に作動するシステムであり、人間の知性をすべて数理モデル化することはできないからです。

数学の3つの言葉―論理・確率・統計

数学には3つの言葉があります。論理、確率、統計です。あらゆる数理モデルは、この3つの言葉を使って構成されます。

かつての人工知能プロジェクトは論理の言葉を使って、人間の知性を再現しようとしました。しかしそれは上手くいきませんでした。

それに対していま急速に発達しているAIは統計の言葉を使っています。

人間の知性を再現するのではなく、統計学的なアプローチで結果的に人間のような判断を下すのが現在主流の人工知能です。

しかしいずれにせよ、それらは数学の言葉に基づいています。そして人間の知性の営みすべてを数学の言葉に翻訳することはできません。

私たちの知的営みのすべてを、論理・確率・統計だけで表すことは不可能なのです。

これがAIが人間の知性を再現できない理由です。

 

論理実証主義とウィトゲンシュタイン

AIと人間知性の差異にかんする話を聞いていると、論理実証主義とウィトゲンシュタインの対立が思い浮かびます。

20世紀の欧州には、論理実証主義と呼ばれる哲学グループが存在しました。天才哲学者ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』から影響をうけた哲学者たちです。

論理実証主義のプロジェクトは自然言語を論理化すること。いわば、人間の知性を数学化する試みといってもいいでしょう。

論理実証主義はやがて大西洋を渡り、アメリカの哲学界にも多大な影響を及ぼしました。

自然を数学化するというヨーロッパ的な発想が、アメリカの知識人にも浸透します。

しかし彼らのプロジェクトは失敗しました。これは後に起こったAIによる人間知性の再現の失敗を、何十年も先取りしていた現象とみることができます。

ウィトゲンシュタインは論理実証主義を批判した

論理実証主義はウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』から影響をうけて発生した哲学グループでしたが、皮肉なことに当のウィトゲンシュタインは論理実証主義を否定しました。

ウィトゲンシュタインは中期になるとその思考を転換し、自然言語は論理化できないし、する必要もないと考えるようになります。

数学化された言語が「上等」であり日常的な自然言語が「下等」だとする見方は、彼によると哲学病以外のなにものでもありません。

自然言語はすでに完成されているのであり、それを外から矯正する必要などないのです。

ウィトゲンシュタインであれば、AIに人間知性を再現させることの無謀さをまちがいなく指摘したと思います。

AIと数学に革命は起きるのか

AIが人間並みの知性を再現するとしたら、論理的には2つの道が考えられますね。

①数学に革命が起きて自然言語を数理モデル化できるようになる
②AI技術に革命が起きて数理モデル以外の方法で人工知能が動くようになる

このどちらかしかないと思います。いずれにせよ、それは現在のテクノロジーの延長線上にはありません。

今のままでは、AIに人間の知的活動を再現することは不可能でしょう。