日本経済が世界から取り残された理由『「産業革命以前」の未来へ』【書評】

2020年10月24日野口悠紀雄

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野口悠紀雄の『「産業革命以前」の未来へ』を読みました。

産業革命に始まる垂直統合型のビジネスモデルと、90年代から世界の主流になった水平分業型のビジネスモデルを対比させて、世界の経済動向を解説していく良書です。

日本は企業のビジネスモデル、働き方、教育の3つの点で水平分業に対応できず、世界から取り残されつつあるとされます。

産業革命ではじまった垂直統合モデル

産業革命によって、ビジネスモデルに大きな変化が生まれました。製造業を中心にして、垂直統合と呼ばれるモデルが主流となったのです。

垂直統合モデルとはなんでしょう?これは、製品の設計から部品の製造、組み立て、販売にいたるまでのさまざまなプロセスを1つの企業内ですべて行う手法です。

産業革命にはじまる工業経済においては、このように会社を大規模化していくことがもっとも効率的だったのです。

アメリカ、ドイツ、日本はこの新モデルにいち早く適応し、イギリスを抜き去っていきました。

 

アップルが生み出した水平分業モデル

1990年代になって、ビジネスモデルに大転換が生じます。垂直統合モデルに代わって、水平分業モデルが登場したのです。

水平分業とはなんでしょうか?これは、世界中のさまざまな会社によって生産された部品を市場で購入し、そこから最終的にひとつの製品をつくる手法です。

垂直統合ではすべてを自社の内部で行っていましたが、水平分業では外に出せる部分をすべて外部化しようと試みるわけです。この手法の先駆者であるアップルなどは、製品の企画と販売しか行っていません。その他のすべてのプロセスを外部化しているのです。

アメリカ発祥のこの新モデルに適応し大きな成果を上げているのが、中国にほかなりません。

 

日本は水平分業の世界に対応できていない

日本は企業は過去の栄光にとらわれ、いまだに産業革命型の垂直構造モデルにこだわっています。

既存の企業が新しいビジネスモデルに転換するためには、既得権をもつ抵抗勢力を排除しなくてはなりません。

しかし強大な力をもたない日本型のリーダーシップでは、こうした改革はまず不可能です。

かといって新しいスタートアップ企業が日本にいるかといえば、これも心もとない状況。起業率は低く、ユニコーン企業の数もアメリカや中国とは比べ物になりません。

また労働者の働き方にも課題があります。水平分業の世界では組織に縛られた規律正しい社員よりも、自由な発想で動くフリーランスの活躍が重要になります。

しかし日本の場合、フリーランスの数が圧倒的に少ないのです。給与所得控除がフリーランスという働き方を不利にしているというのが、原因の一つといえるでしょう。

さらに教育にも問題があります。日本の大学はITやテクノロジーの分野で遅れているのです。

これは既存の工学部が抵抗勢力と化しているためで、改革は容易ではありません。

ちなみにITテクノロジーで世界トップの大学は中国の清華大学です。中国と日本の明暗が分かれた原因はここにもありそうです。

野口悠紀雄は著作を乱発しまくる悪癖がありますが、本書は当たりに属する良書だと感じました。